MUSTARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRD!!!!!!!!!!!!
前置き
今Googleなどの検索エンジンで「HIP HOP 王者」と調べてみると、AIによるスニペットによってまず一番上に出てくる名前がこのKendrick Lamarであろう。
今年はそんなHIP HOP界の絶対王者、Kendrick Lamarの動静が非常に注目された1年だった。
きっかけはFutureとMetro Boominのアルバムに収録された楽曲"Like That"にフィーチャリングで参加したケンドリックのバースにて、Drake(およびJ.Cole)に対してのディス。
まあこのバース自体、2023年にDrakeがJ.Coleを客演に呼んでリリースされた楽曲"First Person Shooter"に対するアンサーではあるんですけど、
とにかく"Like That"を皮切りにケンドリックとDrakeの熾烈なビーフ状態へと発展していった。
このビーフとそれぞれのディストラックに関して、日本語でも多くの解説記事や動画が出ているので今更自分が(そもそもHIP HOPが特別詳しいわけでもないので、、)紹介するようなことでもないのですが、結果的にはHIP HOP界をさらに活気づけるようなプラスな側面が多く
一人のリスナーとしてお互い(特にケンドリックだけど)の動静を追うのがとても楽しかった春先だった。
あまりにも行き過ぎると、かの有名な2PACとビギーの東西抗争のような最悪な形で幕を閉じる可能性もあり(実際にDrakeの自宅の警備員が襲撃されたニュースもあったが)、なんとなくお互い過激なファンも多そうなイメージはありますが、とにかく今の所はそこまでの大事には至っていない。
そのビーフ中にリリースされたケンドリックの"Not Like Us"はもはや今年のアンセムソングと言っていいただろう。楽曲内で"OVO(Drakeの個人レーベル)"をコールレスポンスよろしく連呼され、PVではOVOのロゴのフクロウを物理的に叩きのめしたケンドリックが最終的にこのビーフの勝者と言うのが大方の見方だ。
もちろんスポーツのように明確な勝ち負けが存在しないので、Drakeのムーヴの方が優れていた、と思う人も多いと思うしむしろ色々な考え方がある方が健全だと思う。
ただ、あれだけ"数字"を持っているDrakeもこのビーフ上でリリースした楽曲に関してはケンドリックと大きく差をつけられているし、ちょっと擁護は難しい気もする。
前置きがめちゃくちゃ長くなりましたが、以上が簡単に今年の夏くらいまでのKendrick Lamarの動向を簡単にまとめたもの。
そんなケンドリックが何の前置きも無しで2年半ぶりの新アルバム「GXN」を11月22日サプライズリリースしました。
先行してこの1分ほどアルバムトレーラーをYoutubeに公開。
その30分後にサブスク解禁というスピーディーさ。
このアルバムに関してもやはり注目度の高いラッパーのアルバムとのことで多くの方がすでに紹介はされていますが、なるべく自分らしい観点でレビューできたらと思うので拙文ではございますがお付き合い頂けますと幸いでございます。
プロデューサー
長年ケンドリックのアルバムを支えているSounwaveというプロデューサー。
GNXはデビュー時から在籍していたレーベル「TDE」から完全に離れ、
TDE時代から裏方でケンドリックのマネージャーなどサポートしていたDave Free、ケンドリックの従兄弟であるBaby Keemとのレーベル「PGLang」からこのアルバムをリリースしてていますがTDE所属のSounwaveと変わらず一緒に仕事しているようですね。全曲クレジットに記載ありました。
そしてもう一人、現行のポップシーンを語る上で最重要のプロデューサーと言っても過言ではないJack Antonoffが1曲を除いて参加しています。
彼のプロデュース作品は数多くありますが、やはり有名どころだとTaylor Swiftとの仕事でしょうか。
前置きで紹介した"Not Like Us"のプロデューサーであるMustardも2曲で参加。
その他にも楽曲ごとに様々なプロデューサーが参加しており(詳しくないので存じ上げませんでしたが)
よくリリースまでにリークされなかったな思うくらい隙のない陣営で固められています。
アルバムタイトル「GNX」とは
GNXはアメ車のブランドのようです。
誕生はケンドリックと同級生の1987年。
そしてケンドリックが生まれて初めて乗った車でもあるそうです。
楽曲
計12曲、約44分という長さのアルバム。
これは彼の歴代のアルバムの中でも最も短い。
別に短いからいいとか長いから悪いとかいう話ではないですが、まあ聴きやすいよね。
このアルバムはもちろん英語と、一部スペイン語で歌われている部分がある。
1曲目の"wacced out murals"から早速スペイン語のパートでスタートするが、この歌唱はメキシコの民族音楽マリアッチのミュージシャンDeyra Barreraによるもの。
地元ドジャーズの試合にてパフォーマンスした彼女に感銘を受けたケンドリックからのオファーによって実現したらしい。
1曲目からかなりパンチの効いた内容で、ディスとはいかなくともHIP HOP界の大物、Lil waynとSnoop Doggにもチクリ。
来年のスーパーボウルハーフタイムショウの出演が内定しているケンドリック(過去に多くの大御所ミュージシャンが出演した権威あるイベント、ケンドリックは2回目の出演(前回は2022年 HIP HOPのレジェンダリーと共に。Snoop Doggとも共演))に対して、出演者に選ばれなかったことを不服に思うLil Wayne(2025年のハーフタイムショウはLil Wayneの地元、ニューオリンズで開催される)に「I think my hard work let Lil Wayne down」とアンサー。
Snoop Doggに対しては、先述したDrakeとのビーフでDrakeは"Taylor Made"という2PACとSnoop Doggの声をAIで使用した楽曲に関して当の本人であるにも関わらず、怒るようなこともせずヘラヘラとした態度が彼の癪に触ったようだ。
トラックこそ静かですが沸々と彼の怒りが感じられる1曲目から"squabble up"、"luther"と続く流れが最高で、まず"squabble up"は本アルバムでも最も人気曲のようですでにPVもございます。
G-FUNK味の感じるトラック、コール&レスポンスの部分もありキャッチーでノリやすい。
PVはThe Rootsの"The Next Movement"のPVをオマージュしてるとしていないとかで一部で話題に、、、
元レーベルメイトSZAをフィーチャーしているのが"luther"とアルバム最後の楽曲"gloria"。
どちらも内容的にはラブソングのようですが、その一方でHIP HOPへの愛についても歌っているのではという指摘も。
いつも私が参考にしているHIP HOP翻訳かYoutuber、SGDさん。ありがとうございます。
この2曲と"dodger blue"あたりはR&B色の強いケンドリックの楽曲の中でも一般受けしやすそうなナンバーかと。やはりSZAの力は偉大だ。
"heart pt.6"はケンドリックが今まで発表してきた「 The Heart」シリーズの続編にあたるんでしょうけど、ビーフの中でDrakeに先に"THE HEART PART 6"を嫌がらせのように出してきたので、The無しで小文字のタイトルなのでしょうか(というかこのアルバム収録されている楽曲全て小文字だ)。
ちなみにこの「The Heart」シリーズがアルバムに収録されるのは今回初めて。
そして"tv off"は今年散々バズった"Not Like Us"の続編のような楽曲。聞けばわかる
プロデューサーは両曲ともにMustard。
中盤ビートチェンジする際に放たれる「MUSTAAAAAAAAAARD!!!!」は向こうでネットミーム化。
サンプリング
HIP HOPと言えばサンプリングだよ奥さん、ってことで気になった元ネタ紹介。
"reincarnated"は生まれ変わりとか輪廻転生みたいなニュアンスの意味らしいです。
そんな楽曲のサンプリング元は彼が尊敬して止まないレジェンド2PACの"Made Niggaz"から。
信仰心強めのリリックで解読が非常に難しい曲でしたが、このタイトルで元ネタが2PACというのは意味深です。
3バース目はケンドリックと神様の会話になっているらしい。
今までも2PACと会話したりDrakeの親と会話(?)したり、いろいろな人物と対話形式でラップしている。
"luther"の元ネタはソウルシンガーCheryl LynnとLuther Vandrossの"If This World Were Mine"から。ルーサーはあのKanye Westの楽曲の元ネタから知ってレコードも買うくらい好きです。Cherlyさんは初めて知ったけど。
元ネタがこんなロマンチックな雰囲気なんですもん。そりゃSZAに歌わせたらあんな素敵な曲になる。タイトルも明らかにLuther Vandrossからとっていますね。
"squabble up"はDebbie Debというディスコシンガーの楽曲"When I Hear Music"からサンプリング。
本当に勉強不足で聞いたことなったんですけど、世界中でヒットしたフリースタイルのアンセムらしい。
確かにクラブのピークタイムでかけたら盛り上がりそうな楽曲で世代を超えて親しまれているクラシックなんだと。
先ほどの"luther"といい大ネタを使い、コンシャスとポップが絶妙に噛み合っている構成になっていると思う。
"heart pt.6"もSWVという有名なR&Bグループの"Use Your Heart"をサンプリング。
"tv off"が何故"Not Like Us"の続編感があるのかといえば、ビートのリズムが似ているんですよね。それもそのはずで元ネタは実はどちらも同じミュージシャン、Monk Higgins(モックス・ヒギンズ)というサックス奏者からとっているようです(楽曲自体は別ですが)。
"tv off"は"Mac Arthur Park"、"Not Like Us"は"I Believe to My Soul"という楽曲からです。
聴き比べるととても面白いですよ!
アルバム評価
レビュー評価の収集サイトMetacriticでは87点という高水準。
西海岸のHIP HOPへのトリビュート、地元のマイナーなミュージシャンも起用し、若手を含めて業界を盛り上げていこうという姿勢などがポジティブに受けいられているよう。
時期が時期なので2024年のベストアルバムランキング選出に間に合うかどうか微妙ですが、英インディペンデント誌は18位にランクイン。
その一方で音楽メディアPitchforkでは10点中6.6と彼最低の得点。
レビューがくそ長くてテキトーに翻訳にぶっ込んで内容見てみましたが、そもそもDrakeとのビーフから覚めた目で見ていた様子だ。
ちなみにチャートアクションも高く、リリース次週のビルボードソングチャートではTOP5を当アルバムからの楽曲が独占。TOP10に7曲がランクイン。
同じ週のチャートで1位から5位を独占したのは史上4人目らしいです(The Beatles、 Tayler Swift、そして何の因縁かDrakeに続く)。
アルバムチャートももちろん首位。なんの前触れもなくリリースして、音楽も自分のスタイルを崩さずに(それでいて程よくトレンドも取り入れつつ)数字を叩き出すのが彼のすごいところ。
フィジカル版のリリース
2025年3月1日、CDやレコード、カセットで販売されるそうです。
海外サイトだとここから。
私はHMVのページを見つける前に海外サイトで注文しちゃった、、
せめて早く届け。
ちなみに先述したアルバムトレーラーに使われていた楽曲がアルバムに収録されていません。
今後デラックス盤とか出るのかな、、?
感想
先述したDrakeとのビーフの中でリリースした楽曲は1曲もアルバムに収録されていませんが(例外で"Not Like Us"のPVに"squabble up"のほんの一部使用されていますが)、たとえばビートだけに集中して聞いても、音数の少ないシンプルなビートが締めていて"Not Like Us"らディス曲の流れでレコーディングしたものだと想像できる。
初めて通して聞いた時は、オールドスクールなアルバムだなと感じたけど今の売れ線ポップスを見てみると、シンプルなインディーロックやベッドルームっぽい音楽が目立っているように思うし、そこに(特別意図してやった訳ではないだろうけど)スペイン語を含めたリリックと現行のトレンドを抑えている。そういう意味では現在のポップスシーンの最重要プロデューサーJack Antonoffの仕事はかなりデカかったのかと感じた。
Kendrickの他アルバムだと、トレンドを取り入れているという意味だと意外にも「DAMN.」に近い作品じゃないか。
リリックの意味は今後有識者様の解説でも見ながらゆっくり理解していきたいと思いますが、今回のアルバムを通してケンドリックは物質主義なHIP HOP業界への警告を示しているそうです。その他大勢のラッパーにとってはこのアルバムが戒めとなって、よりスキルフルに業界が活性化することを願うばかりです。
ここまで業界を盛り上げられるのは、HIP HOPの域に止まらない人気と影響力とスキルがある彼だけだと思う。
今P.Diddyの問題で揺れるHIP HOP、音楽、エンタメ業界ですが、そんな中で発表された本作品は本当に意味があると思う。
前作「Mr.Morale & the Big Steppers」の楽曲"Mirror"で王冠を外すことを選んだKendrick Lamarでしたが、私たちには、そしてHIP HOPには彼が必要だった。
2024/12/4
早速Kendrick LamarとSZAのヘッドラインツアーを2025年に行うことが発表されました。
ケンドリックにとってもは初のスタジアムツアーとのこと。
北米のみの予定だがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか期待したい。